さよなら花牧荘


1994年4月から足かけ12年半住んできたこのアパートとも、
金曜日でお別れだ。


殆ど私自身と同一視されている感もあったこのアパートだが、
部屋を探し始めてまず最初に案内されたのがここだった。
その日の内に数カ所の物件を見たが、風呂付きでこれほど安い部屋は他にはなく、
割とすんなり決まった。
運命的出会い、とは言い過ぎだが、そんな見つけ方だった。
それ以来、色々なことがあった。
喜んだり悲しんだり、泣いたり笑ったり。陳腐な表現だが、まさにこの通り。
20代半ばから30代半ばの時期を、ここで過ごしてきた。


部屋には色々な人が来た。私も好んで人を招いた。
場所柄、割と寄りやすかったのかも知れない。
実のところ、ここを梁山泊的存在にしようという密かなもくろみもあった。
トキワ荘のような」というと不遜で気が引けるが、気分はそれに近い物があった。
実際に一時期、近所に数人の友人が住んでいた事もあった。


だが時は過ぎ、やがて人は自分の道を探し、
それぞれの場所へ散っていく。
トキワ荘から漫画家達が去っていったように、皆が去っていき、
そして、私も去るときが来た。


青年の時は過ぎ、人生の秋へと入っていく。
これは誰しも体験すること。それを私は今まで引き延ばしていたとも言える。
花牧荘は、モラトリアムの場だったのかも知れない。
だが、私の人生において、良くも悪くも、ある一時代を象徴する場である。
「人生において大事なことは全て花牧荘で学んだ」
というと大袈裟だが、この12年間の私の背後には、常にこの部屋があった。
一生、忘れることは出来ないだろう。


これまでこの部屋に来てくれた人たち、私と関わってくれた人たち、
その他たくさんの人たちに感謝します。
そして私の夢の揺りかごとなってくれていた花牧荘に、感謝。