パット・ブーン「メタルバカ一代!!!」

メタルバカ一代

近所の古本屋で購入。

メタルバカ一代!!!

メタルバカ一代!!!

パット・ブーンHR/HM系の曲をカバーするという、
極一部で未だに語り継がれているアルバム。
当時、たしかNHK教育の英語番組で、
このアルバムに関して熱く語っているパットブーンを見た記憶がある。


かつて、実家に「パット・ブーンクリスマスアルバム」があった。
それに載っていた解説文にはこう書かれていた。
パット・ブーンはクリスマスソングを歌うのにもっともふさわしい人物だ。
 なぜなら、非常に敬虔なクリスチャンだから」
しかし後に、まさか「悪魔の音楽」と非難されるメタルを歌うとは。


パット・ブーンはポピュラー・スタンダード系の歌手だが、
活動初期にも、R&Bの曲をカバーしてヒットさせていた実績がある。
ジャンル違いの曲をカバーする事自体は、彼の経歴から言えば不思議でも何でもない。
ただし、ビッグバンド系のアレンジを施して、あくまでもスタンダード曲として歌うので、
元々のジャンルのファンから見れば「魂を抜かれた」唾棄すべきものとして受け取られがちである。
だが、リズムがスイングしたり、歌い方はスタンダード調のソフトなものになってはいるが、
ギターのフレーズをホーンでなぞっていたり、アレンジ自体は意外に忠実(な部分もある)。
こういった別なアプローチに耐え得るかどうかというのは、
「元の音色を離れても成り立つかどうか」という、
楽曲自体の持つ「強度」を試されているような部分もあって、実に興味深い。
個人的には「クレイジー・トレイン」や「風の中のマリー」が面白かった。
そして何より、このアルバムの秀逸なのは邦題だろう。
これ名付けたディレクターはバカですね。素晴らしいバカ。


国内盤には、ブックレットに載っているパット・ブーン自身のメッセージの訳が載っている。
「(1987年に)俺たちがグッとくるようなメタル・クラシックとやらをデモテープにしてくれって彼に頼んだんだ」
「(聴いて)目から鱗が落ちる思いだったよ」
「もっと広い層のファンにこの音楽を解らせてあげるってことは
 かつてR&Bをカヴァーして歌うところから入ってきたんだけど、
 また同じ機会を手に出来たって気がするよ」
ハード・ロックヘヴィ・メタルは今までずっと偉大なものだったけど、それと同じくらい、
 もしくはそれ以上の規模で(俺が今までそうであったように)そんなこと
 気にも留めない音楽ファンがいるんだよ。こんな前例のないジャズとメタルのミックスには
 新しい聴衆が付くと思うよ。だって素晴らしい曲ばかりなんだから。
 そうなってくれればいいな。まあ、みんな、楽しんでくれよな」
と、徹頭徹尾前向きなのが素晴らしい。
そしてジャケット写真でも、十字に輝く目、バイカー姿。
この訳文でも、以前のパット・ブーンなら、一人称は「俺」ではなく「僕」もしくは「私」だっただろう。



以前、オールディーズ歌手のアネットが雑誌「レコードコレクターズ」のインタビューで
メタリカが大好きなの」と発言していたこともある。
年配のアメリカ人にとって、メタルは意外に身近なものなのかも知れない。


ちなみに「スモーク・オン・ザ・ウォーター」では、ギターソロをリッチー・ブラックモアが、
「ホーリィ・ダイヴァー」にはロニー・ジェイムス・ディオが参加している。御本人登場だ。


「俺はまたあのロックの虫がうずうずして、
 いままでやったことのないロックの名曲を手がけてみたくなってさ。
 ただ、ロックを歌いたかったんだよ」
「俺の身体の中には前人未踏の地に行きたがる遺伝子が組み込まれているのさ。
 新しい領域を探求したがる遺伝子っていうのかな。
 俺がメタルをやるっていうこともまったくの新しい領域って訳さ」
と語るパット・ブーン
このアルバムから早8年。
次に彼のロックの虫が「うずうず」するのは、いつだろうか?