iTunes Music Store Japan開店

美しい人生を


ずっと待ち望まれていたiTunes Music Store Japanが、
本日、とうとう開店した。


ネットでの音楽配信に関して、レコード会社側だけでなく、
古くからのレコードコレクターであればある程、拒否反応が大きい。
レコード、あるいはCDという物理的メディアに慣れ親しんできた身には、
形のないデジタルデータにはどう対処していいか判らない事もあろう。
又、アルバム単位でも販売されてはいるが、ネット音楽配信は基本的に楽曲単位である。
今まで受容してきた「アルバム」という器がなくなることに、非常に抵抗があるようだ。
例えばプログレのアーティストなど、必ずコンセプトアルバム単位で受容してきた訳で、
今更楽曲ばら売りなど受け入れられない、それはアーティストの意志に背く、
ということもあるかも知れない。


だが、考え直すと、むしろこれはチャンスだと思う。
物理的メディアであるレコードやCDは、プレス分が売り切れたら終り、それ以降は入手困難になってしまう。
はたまた売れなかったら、赤字になるだけでなく売れ残りの在庫管理代がかかり、
次の類似の企画が通りにくくなるという、大きなリスクがある。
売れ線の音楽なら、再プレスもされるし、在庫のリスクも大目に見て貰えるだろうが、
マイナーな音楽ジャンルほど、そういったバランスが難しい。
中古レコード屋壁の花となっているプレミア盤はいろいろあるが、
出せばある程度売れる筈であっても、その辺りがクリア出来ずに再発されない勿体ない事例は沢山ある。


音楽配信なら、そういったリスクはかなり軽減出来る。
物理的メディアではないから、在庫管理も必要ないし、売れ残りの心配もないし、
もし予想以上に売れても、品切れの心配もない。
音楽配信は、実はマイナーな音楽ジャンルにこそ、恩恵があるものなのだ。
マイナージャンルの一番の悩みの種は、
「出た時に買っておかないとすぐ入手困難になる」
である。元々プレス数が少ないので、売り切れてしまったらそれで終わり。
再プレスは難しい。
これも、物理的媒体を廃したことでクリア出来る。


又、現在はCDという器がメインなので、何でもかんでもアルバム単位で売られているが、
「特定の楽曲だけ欲しい」という層が、実は多い。
「この曲だけ欲しいんだけど、他の曲はいらないんだよな」
ということで、CDの購入を思いとどまる、という人が多いのだ。
いわば現在のCDは、「抱き合わせ商法」の様な印象を与えている訳だ。
これは商機を逃している、としか言いようがない。
需要はあるのに、適切な供給をしていないために、せっかくの機会を逃してしまっているのだ。


例えば典型的な例が、シングル盤数枚しか出さなかった'80年代アイドル。
シングル盤数枚では、単独でCDを出すのは難しい。自然、他のアイドルとの混成盤になる。
それはそれで構成としては「あり」だが、上記のような人には敬遠されてしまい、
結果として売れるはずのものが売れない。売れないので次の企画が通りにくくなり、
結局、そのラインの再発が滞ってしまう。
需要はあるのに実に勿体ない。
しかし、ネット音楽配信は物理的メディアの呪縛がないので、
そのアイドルの欲しい曲だけ、自由に買うことが出来る。
アルバムという単位が意味を持っていないアーティストの場合、これは利点である。
確実に商機を生かす事が出来る。


レコード会社としては、利益率がより高いCDでの抱き合わせ商法を続けたいのだろうが、
今のような状況で、そんな贅沢は言っていられない筈だ。
又、遊んでいた過去の音源を再利用出来る絶好のチャンスだ。
売れないと思っていても、こうやって売りに出せば、買う人がいるかも知れない。
潜在的需要が計れる。次の企画が見えてくる。
単に死蔵しているよりも、余程マシな筈だ。
例え薄利多売でも、売る機会は多ければ多い方がいい。
商機を逃す手はない。


それに、CD、もしくはそれに準ずる物理的メディアでの商売も、完全に終わってしまった訳ではない。
世の中マニアといわれる人たちが(例え少数でも)いるのだ。
その人達にとっては、音源もさることながら、ジャケットや「帯」なんてものが非常に重要。
例え同じ音源でも、そういった付加価値部分に力を入れた企画になら、
彼らは涎を垂らさんばかりの勢いで飛びつくのである。
これは、ネット音楽配信ではフォロー出来ない分野だ。


又、ネット音楽配信は、今のところ結局は圧縮音源である。
ネットの回線スピードが、今の10倍以上の速さが当たり前にならない限り、
無圧縮音源での販売はありえないだろう。
圧縮音源である時点で、回避する人もいる(私もその1人)。
そういう人たち相手にも、今後も物理的メディアでの商売は成り立つだろう。


ただし、より目が厳しくなっていることは確かだ。
ジャケット等で付加価値を付けるにしろ、音質を追求するにしろ、
ネット音楽配信の手軽さに対抗出来るくらいの質を持った企画が、要求されるであろう事を忘れてはならない。


iTunes Music Store Japanは、まだ始まったばかりである。
まだまだ行き届いてない所も多い。楽曲もアーティストも少ないし、分類間違いもある。
ちょっと私が見ただけでも、いくつか見つけた。


The Beach Boysの'80年のアルバム"Keepin' The Summer Alive" が登録されているが、
何故か'85年のアルバム"The Beach Boys"の楽曲もそのアルバム収録曲として、一緒に登録されている。


Neil Youngのアルバムは2つ。"Lucky Thirteen" と"Trans"だ。
'80年代迷走期のベストと、迷走期を代表する迷走アルバム。このセレクトはどうなのさ?
なんで"After the Gold Rush"や"Harvest"のような、代表的なアルバムを入れてないんだ?
(多分レーベルが違うせい)


こういった疑問点はあるが、何せまだ始まったばかり。
契約関係など、面倒くさい部分も多いだろう。何せここまで開店がずれ込んだ。
今は、始まったこと自体を評価したい。


そして、その手軽さは本当に革命的だ。
「あ、あの曲聞きたいな」
と思った時にそのままアクセスして買えてしまうというのは、「商機を逃さない」という点では最高だ。
(現在放送中のテレビのCM曲なんかをTOPにフィーチャーしたら売れそうだ)
全曲試聴出来るというのも素晴らしい。DRMの制限が緩いのも魅力的。
今後の推移を見守りたい。