桑田真澄投手、2イニング無失点4奪三振

MAJOR.JP:桑田、メジャー初対決でイチローを三振! 2回4Kの好投

最近、NHK-BSでMLBをよく見る。
その度思うのは、投手の質のこと。
総じて球は速い。150K超がザラに出る。変化球もよく曲がる。
だが、コントロールが悪い。悪い意味で四方にボールが散る。
「力一杯投げ込んでいって運が良ければストライクゾーン」とでも言うような、
高い身体的能力に頼って投げているパワーピッチャーが多いので、細かい制球力がない。
「日本の投手のコントロールは世界一」と言われるのは本当だと思う。


今日のシアトルマリナーズピッツバーグパイレーツ戦での桑田真澄
これぞ日本の投手という投球だった。
スピードは出ない。ストレートがぎりぎり140K超えるかどうか、大抵は130K台。
しかし、殆どの球が、ストライクゾーンギリギリに制球されている。
腰から下にしかボールが行かない。
上に行く場合は、意識してその場所に投げている。
とにかく1球1球、何らかの意図を持たせているのが、見ているだけでも判る。
前後に出て来たピッチャーとは、余りにも投球の精度が違う。
投手としての完成度が段違いで、大人と子供のようにすら見えた。


前日のインタビューで、桑田が自分の目指す投球について表現する時
「芸術」「イリュージョン」という言葉を口にしていた。
この投球を見てしまうと、これが大袈裟でなく思えてきたから凄い。
150K超のパワーピッチャーばかりの中で、
130K台そこそこの投手が打者をきりきり舞いさせてしまうのは、まさしく「イリュージョン」だろう。
実際、今日は奪三振が4つ、
しかもあのイチローまでが空振り三振。
MAJOR.JP:イチロー、桑田に脱帽 空振り三振で
MAJOR.JP:世代を超えて認め合う桑田とイチロー
イチローは、世代的に甲子園でのKKコンビの活躍を見ていると思われる。
メジャーという場で相対することに何らかの感慨があったことは、間違いないだろう。


勿論、球威がないと言うことは、コントロールが悪いときには
ヤンキース戦でのA-RODのように長打を打たれる危険性が高い、と言うことだ。
だが、今日のような投球を見せてくれると、このリスク承知で、桑田に期待してみたいと思ってしまう。
桑田にならって投球を「芸術」という言い方をするなら、
パワーピッチャーは1球単位で「作品」だが、
桑田の場合、1打席全体、下手すると1試合丸ごとを1単位としての「作品」なのだと思う。
意図された制球下での投球の連なり、それを彼が「芸術」と呼ぶのではないだろうか。


かつての球威を失った事による、モデルチェンジではあるのだろう。
若い頃なら力で押していけた。多少のミスも、力で押し切れた。
しかし39歳の彼には、もはや若い頃のスピードはない。
それは悲しいことではあるけれど、
それと引き替えに彼は、年月と共に「経験」というかけがえのないものを得た。
たくさん勝った。たくさん負けた。優勝もした。打たれて屈辱も味わった。
栄光と挫折。大怪我もした。復活し、そして戦力外通告も受けた。
数々の修羅場をくぐってきた。
それら全てが彼の糧になっている事を、球威がなくても打ち取る方法があることを、
39歳には39歳なりのやり方があることを、
今日我々にまざまざと見せつけてくれたのだ。
かつての桑田からは大きな野心を感じたものだが(その部分が反感を買った事も否定できない)、
挫折と復活を経た現在の姿からは、むしろいい意味で「枯れた」印象を受ける。
まさしく「経験」から得た知恵である。


36歳である私は、中学時代に甲子園でのKKコンビを見た世代である。
80年代後半~90年代前半の巨人3本柱、
斎藤、桑田、槙原では、圧倒的に桑田が好きだった。
ダーティーヒーロー呼ばわりされていたことで、逆に判官贔屓していたのかも知れない。
私生活はともかく、野球に関しては本当に真剣だったことにも、好感を持ったのかも知れない。


2003年以降の桑田は辛い事が多かったろう。
もう終わりかも、というのは皆思っていたことだ。
メジャー挑戦に「投手としての死に場所を求めた」事は間違いないだろう。
江夏の時と同じだ。
今後の桑田に、大きな事は望まない。
もう散々働いたのだ。後は自分の望むままに、望む野球をやって欲しい。


オープン戦での怪我、皆「これで桑田は終わりだ」と思ったアクシデントから復帰して、
今日の伝説級の投球だけで、もうファンはお腹一杯だ。
今回は全てがうまくいった。最良の結果だった。
これから続けていけば、コントロールミスで打たれることもあるだろう。負けることもあるだろう。
それはそれで、精一杯やった結果だ。
後は、彼が「やりきった」と思う場所までやってくれれば、それでいい。