「マジャール語のロック」、20年目に正体が判明

大学1年の冬、軽音の先輩に、「マジャール語のロックをやろう」と誘われ、
1本のカセットテープを渡された。
その中には、聞き慣れない言葉によるヘンテコなロックが入っていた。


フリーキーなギター、上手いんだか下手なんだか判らないが凄い迫力の演奏、
テンションの高い女性ヴォーカルと、対照的に低い男性ボーカルの絡み。
ヘンテコだがかっこいい。
その先輩の知り合いがハンガリーに旅行した時、そこで買ってきたLPなのだという。
バンド名も判らず、曲名すら判然としないので、
全部一緒くたにして「マジャール語のロック」と呼んでいた。
そこから演奏できそうな曲を2曲選び、耳コピして練習した。
ヴォーカルの人は歌詞も耳で聞き取って、カタカナで歌っていた。


翌年の4月、新入生勧誘ライブで「マジャール語のロック」を演奏したわけだが、
普通のロック好きが多かった軽音の他の人々は、どう反応したらいいか困っていたような気がする。
(ヘンテコな音に割と許容量のある人がバンドに集められた)
大学に入ってきたばかりの彼ら彼女らには、どう聞こえたのだろう。


それから20年余り。
そろそろ家にあるカセットテープをデジタル化して救済しようということになり、
まず手始めに、「マジャール語のロック」のテープを取り込んだ。
20年、正体不明なままで、心の中でずっと引っかかっていたのだ。
しかもこのテープ、録音してくれた先輩が間違えて、A面とB面が入れ替わって録音されている。
(その事は当時から判っていた)
それら諸々の思い出が相まって、実に忘れがたいテープとなっていた。
懐かしくなり、カセットテープに書いてある曲名だかバンド名だか判然としない言葉で、
ネット検索してみた。
すると驚いた。
YouTubeに、我々が聞いた「マジャール語のロック」の、しかも動く映像がアップされているではないか。

これは、我々が「ミラレパベルジオ」と呼んでいた曲。
このギターリフ、奇妙な音列で弾きづらかった。

「プレパラバブラカバレ」と呼んでいた曲。
間奏のロックンロールピアノがかっこいい。
(曲名はいずれも表記をローマ字読みしただけ)


更に検索して、いくつかの事が判った。
「A.E. Bizottság」というのがバンド名らしい。
どう発音するのかは不明。

A. E. Bizottság – Wikipédia
Wikipediaに項目があるが、
多分マジャール語なので、当然読めない。
誰かマジャール語が判る人に訳して貰えないものか。
A.E.とは、どうも「Albert Einstein(アルバート・アインシュタイン)」の事らしい。


Jtgkrtmbalett

Jtgkrtmbalett

これがカセットに入っていたアルバムそのもの。彼らの2ndアルバムだそう。
オリジナルLPは1984年発売。1995年にCD化されたようだが、
現在アマゾンでは品切れの様子。
海外ニューウェイブ、アート系バンドに強い店には入荷したようだが、
枚数も少ないだろうし、今から入手は困難だろう。


Grave A.E.BIZOTTSAG "Jegkrembalett" CD ¥2800
ここにバンドの概要が少し載っている。

  >今やハンガリーを代表するマルチメディア・アーティストの
  >Andras Wahornが在籍していた伝説のアート・パンク。
  >70年代からファイン・アートの分野で活動し、80年代に
  >A.E.BIZOTTSAGを結成。バンドは短命に終わりましたが、
  >当時の歴史背景から見ても非常にユーモア精神にあふれ、
  >鋭い洞察力で社会を見た最先端で難解なサウンドの作品。
  >1984年に発表された2ndアルバムのCD再発。
  >全13曲入り。


「プレパラバブラカバレ」のライブ(?)映像。
より荒々しくてかっこいい。


この辺も同じアルバムの曲
Női agyvelő

Amikor pedig kígyókkal...

他にも色々動画(ソースはTVが殆ど)が上がっていることからみると、
当時ハンガリーではそれなりに知名度があったバンドなのかも知れない。


当時調べようも無かった「マジャール語のロック」。
国境を越えるインターネットという技術のおかげで、20年目にして遂に正体が判明した事に、
私は感慨を禁じ得ない。
しかも、動く姿まで見られるとは、思ってもいなかった。
21世紀は、こんな所にあった。


一つ残念なのは、当時の我々の演奏自体の録音は残っていない事である。
下手くそな演奏だったと思うが、それはそれでいい笑い話になっただろう。
多分、このバンドのカバーをやったのは、今までに日本で我々だけだろうから。